修理事例③ラングラー配線修理

ジープ ラングラー(JK36L)エンジンが止まる

ジープ JKラングラーと言われているモデルの車両で、走行中にエンジンが止まってしまったようです。エンジンが止まっても再始動は出来るようでうすが、その後も時々止まってしまうそうで、最終的にはエンジンチェックランプが点灯してしまったため、修理を決意したとのことでした。
この症状ですが、なかなか厄介なことに点灯し続けているわけではなく、診断機でチェックランプを消灯させると、再点灯せず症状も出なくなってしまいました。


車両情報

メーカー:クライスラー  車種:ジープラングラー  年式:平成26年
【状況】
■時々エンジンが止まる
■エンジン再始動後、エンジンチェックランプが点灯する時がある。※必ず点灯する訳ではない
■エンジンチェックランプは、一度点灯するとその後は消灯しない
■エンジンチェックランプが点灯していても、エンジンの調子は悪くなく走行は全く問題がない
■暑い日に症状が出やすい気がする


故障コードを確認

エンジンチェックランプの故障コードを確認しておきます。
出てきたのは『P0344』と『P0369』の二つ。両方ともカムシャフト・ポジションセンサに係るコードでした。『P0344』は、センサーからの信号が一定ではなくパターンに異常があることを示しています。『P0369』はセンサーからの信号がECM(エンジンコントロールモジュール)に届かない時があることを示しています。
コードの確認ができたので、消去して診断に移ります。


まずは現象を確認

現象を確認することは診断の第一歩ですが、この車両はこれが一番大変でした。何度走行テストを繰り返しても確認できず、一旦お返しするしかないかと思っていましたが、走行せずにアイドリングで置いていた時にようやくエンジンが止まりました。エンジンチェックランプも点灯していました。診断はここからスタートです。


再度、故障コードを確認

入庫時の故障コードと同じか確認します。

故障個所はカムシャフト・ポジションセンサで同じですが『信号が断続的』から『異常』に変化しています。カムシャフト・ポジションセンサに係る故障の可能性が高くなりました。故障コードを消去してもすぐに再点灯するので、今まさに故障中と言う事ですから、症状が出ているうちに点検します。


カムシャフト・ポジションセンサ廻りを点検

まずはセンサの導通や抵抗値をテスターで計測しましたが、異常値は見られなかったので、次は車両側の配線を診ていきます。回路図を参考にECM(エンジンコントロールモジュール)からセンサまでの導通を点検しましたが、断線は見られませんでした。
そうなると、あとは消去法で『ECMに異常あり』となってしまいますが、『修理事例①』でお話しした通り私の経験上、ECMまたはECUといったメインのコンピュータは、見た目で水没や大きな損傷が無ければ問題ないのがいつものパターンです。コンピュータを疑うと脳が考えることを放棄するので、まずは元に戻して『今も故障中か』を確認します。


正常に戻っている

元に戻してみるとエンジンが問題なくかかったので、診断機で故障コードをチェックしてみると、異常コード無しでした。もう一度エンジンを暖機して故障を再現します。
この時、大きなヒントになる出来事がありました。エンジンフード(ボンネット)を開けて暖気しているときは再現できませんが、フードを閉じて暖めると再現しやすいので、ここでいったん推理の時間に入ります。


「暑い日に症状が出やすい気がする」が大きなヒント

お客さんから言われたこの一文が大きなヒントになります。一見すると何でもない一言ですが「暑い日」から『温度が関係している』ことと「出やすい気がする」から『必ず出るわけではない』ことが読み取れます。実際に普通の走行テストでは再現できず、アイドリングで置いておくことで再現しました。また、再現したにも関わらず時間の経過とともに問題なくエンジンがかかったことでも証明されています。
ここで大きなポイントとなるのは、走行テストで再現できなかったことです。これは『エンジンの暖機』が重要なのではなく『エンジンルームを暖める』ことが重要です。エンジンだけを暖めても再現できないのにエンジンルーム全体を暖めると再現するのは、エンジンに取り付けられている部品より、その周辺の部品を疑うほうが理にかなっています。


配線の不具合が濃厚

ECM、センサ、配線の中で、直接エンジンに触れずエンジンルームの熱に影響されるのは、ECMとその配線です。先にお話しした通りECMの可能性は低いので、そう仮定した場合、先に点検すべきところは配線です。

疑わしいところ発見です。少し力を入れて引っ張ると被覆が割れました。さらに力を加えると、中の銅線がスポッと抜けました。これで確定です。
見えている部分の銅線はつながっていましたが、見えていない所で銅線が切れていました。ここは黒いビニールテープが巻かれていない所なので、水分とエンジンの熱で被覆が硬化していたと思われます。センサに取り付けるカプラー側が硬化していて、ビニールが巻かれている側が少し柔軟なことが断線の原因だと思われます。

家電製品のコードや、USBのケーブルなどで起こりやすい故障と同じで、片方が固定されていて、片方が柔軟に動くようなコードの境目は疲労しやすいです。
自動車はエンジンがかかっている状態だと微振動が発生しているので、エンジンに固定されていない箇所の配線は、エンジンとは異なる周波数で振動します。エンジンに固定されているセンサーのカプラーと、固定されていない配線の微振動によって被覆の中で切れてしまったと考えられます。


症状が出るときと出ない時のメカニズム

症状が出るときの出ない時のメカニズムは、物質の温度変化が大きく関係しています。
少し専門的な話になりますが、物質は種類によって熱膨張係数が違います。元が硬いものほど膨張しにくく、元が柔らかいものほど膨張しやすい傾向にあります。自動車部品のほとんどが、硬い金属類と柔らかいプラスチック類の組み合わせで構成されているので、温度変化による不具合は少なくありません。

解説図②のように、金属疲労で中の線が切れていても、接触していれば電気や信号は通ります。
しかし、線が熱くなってきたときに、膨張しやすい被覆部分が中の線を引っ張ってしまって、何とか触れていた部分が離れます。中の線は金属類でプラスチック類より膨張しにくいため、金属部分の接触不良が起きます。これで車両に不具合の症状が出てきます。
冷えてくれば隙間がなくなって触れ始めるため、電気や信号が流れて不具合が解消され、走行できるようになります。
これまでの整備経験で、ABSセンサー、クランク角センサー、ヒューズボックス、リレー、エアコン・コントロールユニットなどが、温度による不具合で『まれに症状が出る』と頭を抱えたことがありました。


ヒントの数が解決の糸口

「暑い日に症状が出やすい気がする」のお陰で、不具合箇所が発見出来ました。『時々出る』の不具合でお悩みの方は、どんな時に出やすいかを気にしてみてください。