分解整備と道路運送車両法と整備認証

分解整備と道路運送車両法と整備認証の関係性

運転者や同乗者だけでなく歩行者などの安全も守るために、道路運送車両法では「分解整備を実施するには人も工場も資格が必要です」と定めています。

公道を安全に走行するには、資格(知識と経験)を持った人が整備しないと危険です。特に『走行』に関わるブレーキ、エンジン、ミッションなどの箇所は事故につながる重大な故障も考えられます。

ここでは分解整備と道路運送車両法と整備認証の関係性を説明します。

道路運送車両法とは(分解整備に係る)

道路運送車両法は整備業界の法令ではなく、日本の法律です。

日本で運送車両を使用して道路を走行する際に、「『安全性を確保すること』『公害を防止すること』『環境の保全』『整備についての技術の向上』までも考慮してください」と言う法律です。

そして、自動車の整備でこの法律に大きく関係している内容は以下の通りです。

《日常点検整備》
【第四十七条の二】
自動車の使用者は、自動車の走行距離、運行時の状態等から判断した適切な時期に、国土交通省令で定める技術上の基準により、灯火装置の点灯、制動装置の作動その他の日常的に点検すべき事項について、目視等により自動車を点検しなければならない。

【2】次条第一項第一号及び第二号に掲げる自動車の使用者又はこれらの自動車を運行する者は、前項の規定にかかわらず、一日一回、その運行の開始前において、同項の規定による点検をしなければならない。

【3】自動車の使用者は、前二項の規定による点検の結果、当該自動車が保安基準に適合しなくなるおそれがある状態又は適合しない状態にあるときは、保安基準に適合しなくなるおそれをなくするため、又は保安基準に適合させるために当該自動車について必要な整備をしなければならない。

要するに、自動車の使用者が保安基準に適合するように整備及び管理してください。言う事です。「その際に資格が必要です」とは書かれていない所がポイントですね。

では、どういった時に資格が必要になるのでしょうか。それが書かれているのは次の『整備認証』についてです。

認証(整備認証または認証工場)とは

自動車整備業界では「認証工場じゃないと整備してはいけません」と言われています。しかし、『道路運送車両とは』でお話した通り、自分で整備する場合はそんなこと書かれていません。なぜでしょうか。それが書かれているのは以下の第七十八条です。

《認証》
【第七十八条】
自動車分解整備事業を経営しようとする者は、自動車分解整備事業の種類及び分解整備を行う事業場ごとに、地方運輸局長の認証を受けなければならない。

【2】自動車分解整備事業の認証は、対象とする自動車の種類を指定し、その他業務の範囲を限定して行うことができる。

【3】自動車分解整備事業の認証には、条件を附し、又はこれを変更することができる。

【4】前項の条件は、自動車分解整備事業の認証を受けた者(以下「自動車分解整備事業者」という。)が行う自動車の分解整備が適切に行われるために必要とする最小限度のものに限り、且つ、当該自動車分解整備事業者に不当な義務を課することとならないものでなければならない。

要するに、商売として分解整備や修理をする場合は地方運輸局長の認証を受けてください。と言う事です。
様々な条件(面積、工具、有資格者、犯罪歴の有無)をクリアした事業者が認証工場となります。

道路運送車両法では『お金をもらわなければ、分解整備をしても違法ではない』と言う事になりますが、これには大きな注意点があります。それは以下の文章です。

《点検整備記録簿》
【第四十九条】
自動車の使用者は、点検整備記録簿を当該自動車に備え置き、当該自動車について前条の規定により点検又は整備をしたときは、遅滞なく、次に掲げる事項を記載しなけれうばならない。

(1) 点検の年月日
(2) 点検の結果
(3) 整備の概要
(4) 整備を完了した年月日
(5) その他国土交通省令で定める事項

【2】自動車(第58条第1項の検査対象外軽自動車及び小型特殊自動車を除く。以下この項において同じ。)の使用者は、当該自動車について分解整備(原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置又は連結装置を取り外して行う自動車の整備又は改造であって国土交通省令で定めるものをいう。以下同じ。)をしたときは、遅滞なく、前項の点検整備記録簿に同項第3号から第5号までに掲げる事項を記載しなければならない。ただし、前条第2項において準用する第47条の2第3項の規定による必要な整備として当該分解整備をしたとき及び第78条第4項の自動車分解整備事業者が当該分解整備を実施したときは、この限りでない。

点検や整備をしたときには定められた項目を記録簿に記載すること。また、分解整備をしたときも記録簿に必要事項を記載すること。ただし、整備工場で作業を実施したときは不要です(整備工場が作成してくれるため)。とあります。

点検だけでなく分解整備をしたときも記録簿を発行しなければいけません。では、分解整備とはどこまでの範囲を指すのでしょうか。

分解整備とは

原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置、連結装置を取り外して行う作業を分解整備と言います。

イラストにある箇所のどこか一つを取り外すだけで分解整備に該当しますので、記録簿の記載が必要になります。

注意点としては、「作業内容に関わらず、分解整備の定義箇所に関われば記録簿が必要になる」と言う事です。

例として、通常の『ベルト交換』は分解整備箇所に該当しないため記録簿の発行は不要ですが、トヨタで1SZのエンジンを搭載したヴィッツなどは、ベルト交換時にエンジンマウントのボルトを外すため、分解整備に該当します。

このように『何を交換、修理する作業であるか』ではなく『修理をする工程の中でどこを外すのか』で、分解整備に該当するかしないかが決まります。

要約

自動車を所有するにあたって、これまでの内容を整理すると以下の通りです。

◆自動車の状態管理における責任はユーザー(使用者)にある。
◆自分で整備しても良いが、分解整備を行う際には記録簿を作成しなければいけない。
◆整備で商売をする場合は事業者として認証を取得する必要がある。
◆認証を取得するには、整備資格所持者、整備するための敷地、認証工具の準備などをクリアしなければならない。

これらを考えると「自分で整備するのは面倒だな」と言う考えに至ることから、現在では『修理工場に依頼する』流れが一般的になっています。

また、「何かあっては誰が責任を取るのか」と言う時代に、インターネットの映像から見よう見まねで修理するのはリスクが高くお勧めできません。ジャッキをかけるだけでも最悪の場合は死に至ります。

運転者、同乗者、対向車、歩行者、作業者やその家族など多くの命と密接に関係しているので、修理は整備工場に依頼しましょう。修理代はいわば命代です。